「ちょっと藍梨、そんなに飲んで大丈夫なの?」

「大丈夫だって。私のアルコール分解力は五十三万よ。ふふふふふ」

 それぞれ別の大学へ進んだ私たちだったが、年に数回は一緒に遊んだり、飲みに行ったりという関係を続けていた。高校を卒業してから八年以上が経ち、お互い社会人になった今も、こうしてときどき会っている。

 私は大学を卒業後、大学院で臨床心理の資格を取得した。その後、中学校のスクールカウンセラーとして勤務していたが、現在は育児休暇中である。

 藍梨は理工学部を卒業して、大企業でプログラマーとして働いている。そのうち起業するとか言っているけど、彼女ならやりかねない。

「それにしてもすごいよね」

 藍梨が広げている雑誌を見て、私は言った。

「そうね。あの(あたえ)っちがまさかねぇ」

 雑誌には、国内でも有数の大きな文学賞の結果が掲載されていた。
 今回の受賞者は、私たちの高校の同級生である與時宗(ときむね)だった。

「インタビュー記事も出てたよ」

 藍梨はそう言って、ページを数枚めくる。

「ああ、うん」

 そのインタビュー記事は、私も数日前に読んだ。
 そこに書かれていたことは、実はちょっと私とも関係がある。

『高校生のとき、一度だけ本気で、書くことをやめようと思っていた時期がありました。でも、そんなときに、同級生の女の子が僕に言ってくれたんです。「私は、與くんの小説がすごく好きだから、頑張って」って。びっくりしました。ちょうど、一番悩んでいたときだったので。そのときに書いていた作品が、僕のデビュー作なんです。あの言葉がなければ、今の僕はありません。彼女は何気なく言ってくれただけかもしれませんが、僕にとっては、人生を変える大きな一言でした。とにかく、感謝の気持ちでいっぱいです』

 そんなふうに書かれている部分があった。