内親王という特殊な立場のふぶきだから、他の子どもたちと違うところはたくさんあるのは仕方がない。
それでもまだ幼い子どもには違いないのだから、少しずつ順応していくだろうとのぞみは思った。
だがことはそう単純ではなかった。
「おいお前、どうしてわらわより先にあがろうとする。ダメじゃ、一回休め」
すごろくの後半、ふぶきが発した言葉に、参加していた子どもたちとのぞみ、皆が首を傾げた。
お前と声をかけられたかの子も、ぽかんと口を開けている。
さっきかの子が振ったサイコロは六、このままいけば一番にあがりのはずだった。
不可解なふぶきの行動を、隣の伊織が説明する。
「ふぶきさまよりも先にあがってはいけません。これは内親王さまとすごろくをするときのルールでございます」
「そんなルール知らない!」
かの子が声をあげる。
のぞみも後に続いた。
「伊織さん、それはちょっと……御殿のルールはともかくとして、ここではお預かりした子どもたちは皆平等ですそういった特別扱いはできません」
「おやおや!」
伊織が大袈裟に驚いて見せる。
少しわざとらしくも思えるその仕草に、のぞみは眉をひそめた。
「内親王ふぶきさまの御前で控えめに舞うべきだということは、あやかしであれば守らなくてはならない最低限の礼儀作法です。場所は関係ありません。保育園ではそんなこともおしえないというのですか? これはこれは」
一方的な伊織の言い草にのぞみは内心で反発を覚えるが、これがあやかし界の共通のルールなのだ言われたらなにも言えなくなってしまう。
子どもたちがあやかしとして生きていくために、必要なことをおしえてあげるのも保育園の役割だからだ。
でも……。
「そんならおもしろくないやい! やーめた! やめた!」
のぞみがどうすればいいか考えあぐねているうちに、子どもたちがそう言ってすごろくをやめてしまう。
そして散り散りに別の遊びに行ってしまった。
かの子だけがその場に残った。
ふぶきはというとなにが起こったのかわからないというように少し驚いて周りを見回している。
のぞみはなるべく優しく彼女に語りかけた。
「ふぶきちゃん、すごろくは誰が一番になるかわからないから面白いのよ。負けたら次こそは勝ってやるって思うでしょう? いつもいつも自分が勝つってわかっていたらおもしろくないでしょう?」
だがおそらくはそもそも負けたことがないであろう彼女にはいまいちピンとこないようだ。
首を傾げて不思議そうにしている。
かの子がのぞみの腕を引っ張った。
「先生、かの子おままごとしたい」
「そうね」
のぞみはかの子が怒りださなかったことに安堵してにっこりと笑いかける。そしてふぶきに問いかけた。
「ふぶきちゃんもやる?」
ふぶきはまた首を傾げた。
「なんじゃ、それは」
のぞみは伊織をチラリと見て、彼がなにも言わないのを確認してから口を開いた。
「皆でお家の人のフリをして遊ぶの。お母さん役、お父さん役、子どもの役。なんでもいいから、役を決めてなりきるの。お母さん役が人気だよ。やってみる?」
ふぶきは少し考えてからこくんと頷いた。
かの子が大きな声で皆に呼びかけた。
「おままごとやる人この指とーまれ!」
「あ、やるやる!」
普段からおままごとが大好きなメンバーが何人か集まってきた。
「ふぶきちゃんはなに役がいい?」
「……なんでもよい」
「じゃあ、私たちが決めるね」
あっという間に配役は決まり、ふぶきは子どもの役に決まる。
のぞみはホッと息を吐いた。
やりたくないと言われるかと思ったが、やっぱり内親王でも子どもは子ども。少しずつでも根気よく働きかければ園に馴染めるはず。
焦らずに……。
のぞみはそう自分自身に言い聞かせた。
それでもまだ幼い子どもには違いないのだから、少しずつ順応していくだろうとのぞみは思った。
だがことはそう単純ではなかった。
「おいお前、どうしてわらわより先にあがろうとする。ダメじゃ、一回休め」
すごろくの後半、ふぶきが発した言葉に、参加していた子どもたちとのぞみ、皆が首を傾げた。
お前と声をかけられたかの子も、ぽかんと口を開けている。
さっきかの子が振ったサイコロは六、このままいけば一番にあがりのはずだった。
不可解なふぶきの行動を、隣の伊織が説明する。
「ふぶきさまよりも先にあがってはいけません。これは内親王さまとすごろくをするときのルールでございます」
「そんなルール知らない!」
かの子が声をあげる。
のぞみも後に続いた。
「伊織さん、それはちょっと……御殿のルールはともかくとして、ここではお預かりした子どもたちは皆平等ですそういった特別扱いはできません」
「おやおや!」
伊織が大袈裟に驚いて見せる。
少しわざとらしくも思えるその仕草に、のぞみは眉をひそめた。
「内親王ふぶきさまの御前で控えめに舞うべきだということは、あやかしであれば守らなくてはならない最低限の礼儀作法です。場所は関係ありません。保育園ではそんなこともおしえないというのですか? これはこれは」
一方的な伊織の言い草にのぞみは内心で反発を覚えるが、これがあやかし界の共通のルールなのだ言われたらなにも言えなくなってしまう。
子どもたちがあやかしとして生きていくために、必要なことをおしえてあげるのも保育園の役割だからだ。
でも……。
「そんならおもしろくないやい! やーめた! やめた!」
のぞみがどうすればいいか考えあぐねているうちに、子どもたちがそう言ってすごろくをやめてしまう。
そして散り散りに別の遊びに行ってしまった。
かの子だけがその場に残った。
ふぶきはというとなにが起こったのかわからないというように少し驚いて周りを見回している。
のぞみはなるべく優しく彼女に語りかけた。
「ふぶきちゃん、すごろくは誰が一番になるかわからないから面白いのよ。負けたら次こそは勝ってやるって思うでしょう? いつもいつも自分が勝つってわかっていたらおもしろくないでしょう?」
だがおそらくはそもそも負けたことがないであろう彼女にはいまいちピンとこないようだ。
首を傾げて不思議そうにしている。
かの子がのぞみの腕を引っ張った。
「先生、かの子おままごとしたい」
「そうね」
のぞみはかの子が怒りださなかったことに安堵してにっこりと笑いかける。そしてふぶきに問いかけた。
「ふぶきちゃんもやる?」
ふぶきはまた首を傾げた。
「なんじゃ、それは」
のぞみは伊織をチラリと見て、彼がなにも言わないのを確認してから口を開いた。
「皆でお家の人のフリをして遊ぶの。お母さん役、お父さん役、子どもの役。なんでもいいから、役を決めてなりきるの。お母さん役が人気だよ。やってみる?」
ふぶきは少し考えてからこくんと頷いた。
かの子が大きな声で皆に呼びかけた。
「おままごとやる人この指とーまれ!」
「あ、やるやる!」
普段からおままごとが大好きなメンバーが何人か集まってきた。
「ふぶきちゃんはなに役がいい?」
「……なんでもよい」
「じゃあ、私たちが決めるね」
あっという間に配役は決まり、ふぶきは子どもの役に決まる。
のぞみはホッと息を吐いた。
やりたくないと言われるかと思ったが、やっぱり内親王でも子どもは子ども。少しずつでも根気よく働きかければ園に馴染めるはず。
焦らずに……。
のぞみはそう自分自身に言い聞かせた。