Side朔夜
「下手くそ」
「イメージと違う」
「結局顔だけじゃん」
原作ファンに思いっきり叩かれたのは知っている。
凪波に鍛え上げられた今なら、そう言われても仕方がないと分かっているが、やはり当時はそれなりに傷ついた。
そんな僕の演技を、凪波はガラリと変えてくれた。
まずは、漫画を読むということから教えてくれた。
漫画には、セリフだけではなく、コマの大きさや描き込まれているモチーフにもメッセージが込められていることがある。
僕は、最初セリフと表情から
「何となくこんな感じだろう」
と思った通りにしか読むことが出来なかった。
でもそれだと、所詮は表面的な演技でしかない。
誰でも出来てしまう軽い演技になる。
そう、僕は凪波に指摘されていたのだ。
大きめのコマで描かれているのは何のためか。
あえて背景を描いていない理由は何か。
どうしてそのセリフを作者はあえて選んでいるのか。
普段ただ目を通すだけなら、そこまで気にしたことがなかった。
でも、役になるということは紙とペンで描かれた二次元の世界にリアリティを創ることと同じだと、凪波に力説された。
言われた最初は、理解が出来なかった。
どうすればいいかと何度聞いても、分かるまで練習し続けるしかないとしか言われなかった。
でも、一緒に凪波と暮らしながら、凪波とセリフや解釈の壁打ちをしていく内に、少しずつリアルな演技の意味がわかった気がした。
僕の演技が一皮向けたと言われるようになったのは、原作好きなら誰でも名シーンだと言う戦闘シーン。
丸々1話分が敵との一騎打ち。
どんなにアニメの映像や音楽が素晴らしかったとしても、キャラクターから出てくる声で嘘を気づかせては、視聴者はシーンにリアリティを感じてもらえない。
相手役の声優は、日本人なら誰でも知っている名声優。
「うわっ、敵が強すぎ」
「これもう、声だけで負けたな」
そんなノイズも勝手に耳に入ってくる。
逃げたい。
いっそ、自分じゃなければもっといいシーンになったのかもしれない。
あまりに耐えられなくなった日に凪波に弱音を吐いた。
すると凪波は、僕をそっと抱きしめながら
「もう、あなただけの役なんだから」
と言ってくれた。
「…………だけど……」
「ん?」
「僕がこの役を演じるのを……喜んでいない人の方が多いし……」
「何言ってるんですか」
凪波は、僕の唇に自分の人差し指をそっと触れさせながら
「私は……あなたで良かったと思ってますよ」
「ほ、本当に……そう思う?」
他でもない。
凪波に認められたことが何よりも嬉しかった。
その後
「というわけで、特訓、しましょうね」
と、凪波による、僕の喉が壊れないギリギリの特訓が行われた訳だが、気持ちが楽になったこともあり、どんどん役が体に染みていった……気がする。
収録当日のことは、正直よく覚えていない。
気がついたら終わっていた。
ただ、大先輩でもある敵役の先輩から握手を求められ
「いい戦いをありがとう」
と言われたのが、とても嬉しかった。
そのエピソードが放映された後、僕のこの役に対する評価は一気に上がり、顔だけ声優というレッテルを剥がすことが出来た。
今思い出しても、この作品を演じた時期はどの役を演じたときに比べても精神的に辛いと言える時期。
だけど、この時期を乗り越えることが出来たからこそ、僕はこの時まで、声優として役を作り続ける事ができたのだと思う。
今や、この役は僕にしかできない役だと言われている。
だから……その役の、あの時の場面のセリフをリクエストしてきた視聴者には心から感謝をしたいと思った。
僕が、本物の僕である証明をこれですることができるのだから。
それから僕は、数分かけて、あのシーンを1人で演じ続けた。
終わった頃には、視聴者数が一気に1000人以上増えていた。
Twitterで誰かが拡散してくれたらしいことが、コメントから分かった。
それは、僕が立てた作戦通りだった。
そして……僕の立てた作戦は、成功するだろうとこの時確信した。
「下手くそ」
「イメージと違う」
「結局顔だけじゃん」
原作ファンに思いっきり叩かれたのは知っている。
凪波に鍛え上げられた今なら、そう言われても仕方がないと分かっているが、やはり当時はそれなりに傷ついた。
そんな僕の演技を、凪波はガラリと変えてくれた。
まずは、漫画を読むということから教えてくれた。
漫画には、セリフだけではなく、コマの大きさや描き込まれているモチーフにもメッセージが込められていることがある。
僕は、最初セリフと表情から
「何となくこんな感じだろう」
と思った通りにしか読むことが出来なかった。
でもそれだと、所詮は表面的な演技でしかない。
誰でも出来てしまう軽い演技になる。
そう、僕は凪波に指摘されていたのだ。
大きめのコマで描かれているのは何のためか。
あえて背景を描いていない理由は何か。
どうしてそのセリフを作者はあえて選んでいるのか。
普段ただ目を通すだけなら、そこまで気にしたことがなかった。
でも、役になるということは紙とペンで描かれた二次元の世界にリアリティを創ることと同じだと、凪波に力説された。
言われた最初は、理解が出来なかった。
どうすればいいかと何度聞いても、分かるまで練習し続けるしかないとしか言われなかった。
でも、一緒に凪波と暮らしながら、凪波とセリフや解釈の壁打ちをしていく内に、少しずつリアルな演技の意味がわかった気がした。
僕の演技が一皮向けたと言われるようになったのは、原作好きなら誰でも名シーンだと言う戦闘シーン。
丸々1話分が敵との一騎打ち。
どんなにアニメの映像や音楽が素晴らしかったとしても、キャラクターから出てくる声で嘘を気づかせては、視聴者はシーンにリアリティを感じてもらえない。
相手役の声優は、日本人なら誰でも知っている名声優。
「うわっ、敵が強すぎ」
「これもう、声だけで負けたな」
そんなノイズも勝手に耳に入ってくる。
逃げたい。
いっそ、自分じゃなければもっといいシーンになったのかもしれない。
あまりに耐えられなくなった日に凪波に弱音を吐いた。
すると凪波は、僕をそっと抱きしめながら
「もう、あなただけの役なんだから」
と言ってくれた。
「…………だけど……」
「ん?」
「僕がこの役を演じるのを……喜んでいない人の方が多いし……」
「何言ってるんですか」
凪波は、僕の唇に自分の人差し指をそっと触れさせながら
「私は……あなたで良かったと思ってますよ」
「ほ、本当に……そう思う?」
他でもない。
凪波に認められたことが何よりも嬉しかった。
その後
「というわけで、特訓、しましょうね」
と、凪波による、僕の喉が壊れないギリギリの特訓が行われた訳だが、気持ちが楽になったこともあり、どんどん役が体に染みていった……気がする。
収録当日のことは、正直よく覚えていない。
気がついたら終わっていた。
ただ、大先輩でもある敵役の先輩から握手を求められ
「いい戦いをありがとう」
と言われたのが、とても嬉しかった。
そのエピソードが放映された後、僕のこの役に対する評価は一気に上がり、顔だけ声優というレッテルを剥がすことが出来た。
今思い出しても、この作品を演じた時期はどの役を演じたときに比べても精神的に辛いと言える時期。
だけど、この時期を乗り越えることが出来たからこそ、僕はこの時まで、声優として役を作り続ける事ができたのだと思う。
今や、この役は僕にしかできない役だと言われている。
だから……その役の、あの時の場面のセリフをリクエストしてきた視聴者には心から感謝をしたいと思った。
僕が、本物の僕である証明をこれですることができるのだから。
それから僕は、数分かけて、あのシーンを1人で演じ続けた。
終わった頃には、視聴者数が一気に1000人以上増えていた。
Twitterで誰かが拡散してくれたらしいことが、コメントから分かった。
それは、僕が立てた作戦通りだった。
そして……僕の立てた作戦は、成功するだろうとこの時確信した。