綺は変だ。人の雰囲気や態度の変化には気づくくせに、空気を読まない。
わざと、敢えて。
綺の発言と行動には、全部その接頭語が付いている気がする。
「2割の本音は、自分から言わないとわかんねーよ。人間は、そんなに優秀じゃねーんだわ」
優秀じゃないから、過去を引きずり、立ち止まって振り返る。時間が解決してくれるまで、そうやって一歩ずつ進むしかないんだ。
「まぁ、でもあれよ。思いだすのが苦しいことは俺もわかるから。蘭の気が向いた時に、その手紙、目通してみたらいんじゃね?」
「…一生向かないかもしれないんだよ」
「そん時はそん時だろ。…まあでも、俺はその子と蘭のことなんもしらないけどさ。なんとなく、未来があるような気がする。根拠は俺の勘」
ぽんぽん…と軽く頭を撫でられる。やさしい手つきに、涙が出そうになる。当てにならないはずの綺の声は、どうしてかとても心強く感じた。