「蘭、ね。良い名前」

「あんたには負けるでしょ。……日之出 綺なんてさ」




皮肉ではなく、本当にそう思ったから言っただけだった。

けれど、そう紡ぐと綺は「意味わかんね」と吐き捨てた。綺が立ち上がり、スニーカーで砂に書いた名前を消し、木の枝をポイっと投げ捨てる。それから私を見つめると、




「名前に、勝ち負けとかなくね?」


何言ってんの?みたいな顔をして平然と言いのけた。



「名前って、死ぬまで変えられないもんだろ。どんなに嫌ったって一生変わんないまま。蘭は蘭だし、俺は俺だ。誰のほうがいい名前とか、そういうの無いと思う」

「……」

「一生離れらんないもののことは、どれだけ好きになれるかで人生の見方が変わるよ」



初対面、会って数分。それなのに何故、私はそんな話をされているのだろうか。

見た感じ同い年か、1つか2つの差だ。知ったように人生を語られても良い気はしない。むっと眉を寄せると、「怒んなよ」と笑われた。

それも、なんだか鼻に付いた。