「懐かしいわねぇ。親戚の方は今も同じところに住んでいるって話よ。『綺は元気ですか』って。やえちゃんって、あんなに話す子だったかしらねぇ」

「……さぁ」

「ほら、せっかくだし連絡先してあげればいいじゃない。会いたがってたわよ。あぁ、やえちゃん番号とか変えてないって──」

「いいって、そういうの」




会いたがっている?やえが?俺に?


綺は何も変わってないね、変わろうともしてないね。

聴こえるはずのない音が聞こえる。
やえはきっと、俺のことなんか嫌ってるはずだ。


無理だ、俺には。やえには会えない、会いたくない。俺はまた、逃げることしか選べない。



「俺、もう行くわ」

「え?あぁ、行ってらっしゃい」


母に背を向け、俺は足早に家を出た。