綺の家の門限は21時半だった。
そんなこと今まで言われたことはなかったし、最初に夜の公園に来れなくなった時も、「深夜に外で歩くのダメだって言われた」と言っていたから、もうめったに綺と一緒に夜を越えることはないんだなぁと思っていた。
「俺、21時半までなら外出れるんだよね」
そうしたら2週間前、綺が突然言い出したのだ。
「え?」と声をもらせば、「俺、21時半までなら外出れるんだよね」と、ご丁寧に全く同じ言葉を返された。
聞き返す意味での「え?」じゃない。私が紡いだのは、なんで今まで言わなかったの意味わかんないんですけど、の意味の「え?」だ。
思わず眉を寄せる。「そんな顔すんなよ」と言われたけれど、無理な話だった。
私たちにとってはこんなにも大切なことなのに、なんで言わないの。夜の範囲は長いのだ。言ってくれたら、私が時間を合わせたのに。夕方じゃなくたって、私はいつでも会えるのに。
そんなことを思っていると、私の心を読み取ったかのように綺が言葉を紡いだ。
「蘭と俺の夜は23時だから、21時半まではまだ始まりに過ぎないのかと思ってた」
綺はそう言っていた。
バカだと思う。単細胞というか、単純というか。