「……綺、焦らなくていいよ」
「え?」
「どうにもできないことって、あると思うから。だから、焦らなくていい」
私は、弱いきみも強いきみも、ぜんぶ受け止めたいと思うのだ。
「私は綺が何を抱えてるのかとかわかんないから、凄く無責任になっちゃうかも、しれないんだけど。でも、でもね。必ずしも過去と向き合うことが必要だとは思わない、から。話せる時が来たら、その時は全力で聞くけど、一生言わないままでもいいし。無理して変わらなくたっていいんだよ」
立ち止まることもまた勇気。自分の無理な範囲を自分で感じて逃げることも時には必要なのだ。立ち止まって休むことは、誰かに非難されるようなことではない。
空っぽで、変われずに夜の徘徊を続けるどうしようもない私に、いつかの真夜中さんが教えてくれたこと。それは私だけに言えることではない。
「……だから、大丈夫じゃないのに『大丈夫』なんて言わないでよ」
綺のやさしさに、もう苦しさは感じたくはなかった。