「……素直すぎてこえーよ」
「…うん、」
綺がプシュ、とコーラ缶を開けながら困ったように笑う。照れているのか、なかなか目を合わせようとしないから、顔を覗き込むようにして無理やり視界に映り込むと、慌てたように「ばっっ…かなの蘭は」と言われた。ばかじゃない、わざとだ。
身体を揺らした反動で、地面にコーラが零れる。そのうち蟻が湧きそうだ。
「ねえ、綺」
「うん」
「あのね」
「うん」
「……あのね、聞いてほしいことがあってさ」
「うん。ちゃんと聞いてるよ」
ふたり分の呼吸が落ちる夜は、とても静かだった。満点の星が輝いている。この空をきみと共に見たかったのだと、空を見つめながら思った。
すうっと大きく深呼吸をして、「綺」と彼の名前を呼ぶ。いつ呼んでも美しく、響きが整った名前だ。とても、好きだと思う。
「杏未と、会ったの」
私の物語が動いた。一行たりとも読まずに避けて来たページを開いたのだ。綺に、いちばんに話をしたかった。
それがたとえ───綺の心を置き去りにしても。