一方、依楼葉と会った橘文弘は、別な事を考えていた。

「今日会った、春の中納言……あれは、確かに人を引き付ける……」

一人庭に向かって酒を呑みながら、昼間会った若い公達を思い返していた。

「父親である関白左大臣が、出仕してそうそう中納言に推したのも、頷ける。」


柔らかい物腰、しっかりとした言葉。

何よりも、あの艶やかな顔立ちがいい。


「あれの双子であれば、妹の方も美しいなぁ。」

自分の娘を思い出しても、艶やかさはあちらの方が上だ。

「あれではもし、入内などさせたら、たちまち子に恵まれ、帝の寵愛を独り占めするやもしれぬ。」

その時橘文弘の盃に、一枚の葉が、迷い込んできた。

酒の水面は、橘文弘の心のように、揺れ動く。

「それに、後ろ盾があの中納言では、次は藤原の世にも、なりかねん。」

橘文弘は、持っていた盃を突然、捨ててしまった。


「危うい危うい。早いうちに会っておいて、よかった。」