「申し訳ございません。」

依楼葉は、橘文弘に頭を下げた。

そんな依楼葉を、橘文弘はじーっと見つめる。


「春の中納言殿。帝はそなたを見て、和歌の姫君は左大臣家の姫なのでは、思ったそうだ。」

「えっ?」

依楼葉が顔を上げると、橘文弘は射るような目で、依楼葉を見ている。

「そなた……男にしては、線が細い。」

「はい……病にかかってからは、よく言われるようになりました。」

それでもまだ橘文弘は、依楼葉の事をじーっと、見つめている。

このしばらく続く沈黙が、依楼葉にとっては、何よりもつらい。


「まあ、よい。お体、ご自愛なさいませ。」

「痛み入ります。」

こうしてようやく、橘文弘は去って行った。


もっと大変なのは、それからだった。

「た、大変だ!」

依楼葉を気に入ったはずの藤原崇文が、騒ぎだした。

「帝のお気に入りだなんて!私が敵うはずがない。」

「これ、落ち着け!」