自分が恋慕う帝に、想う人がいるなんて。

依楼葉は今にも、泣きそうになった。

「それがね。相手はどうやら、春の中納言殿の妹君、和歌の姫君らしいのだ。」

依楼葉の中で、ドクンッと胸打つ。


だが、それを聞いていた藤原文隆は、気が気じゃない。

「えっ!?帝が、和歌の姫君を!?」

そしてガクッと、肩を落としてしまった。

「帝がお気に召したとあれば、入内してしまうではないか。」

文隆も、涙ぐんでしまう。

だが太政大臣・橘文弘の娘が、帝の女御である事を知っている藤原武徳は、文隆を止める。

「これこれ、まだ決まってはおらぬ。じゃじゃ……和歌の姫君の気持ちもあるし。」


だがこれを聞いていた、依楼葉はまた何とも、艶やかな表情をする。

無理もない。

相手が帝だからと、諦めていたのに、実は帝も気に入ってくれていたなんて。

それと同時に、今の姿を虚しく思った。

この男の成りでは、帝の想いを受け入れる事すらできない。