それからしばらく後。

依楼葉の嫌な予感は、的中した。


咲哉が、重篤な咳で寝込んでしまったのだ。

これには、父である左大臣・藤原照明も、母である東の方も、顔色が変わる程に、心配の毎日であった。

医師には、あまり咲哉に近づかないように言われていた為、使用人意外、桃花も父も母も、近づけないでいた。

咲哉は、流行り病だったのだ。

ただ一人、”流行り病など、我には関係ない”と、依楼葉だけが咲哉の病床を見舞った。


「依楼葉。いつも、すまない。」

「何を言うのだ。我らはただ一人の、兄妹でないか。」

依楼葉は、熱で息の上がる咲哉の額に、冷たい水で濡らした布を当てた。

「ああ、気持ちいい……」

「しっかりしろ、咲哉。皆、お主の回復を、今か今かと望んでいるぞ。」

そう言うと咲哉は、いつも大事ないと言わんばかりに、黙って微笑む。

それが、毎日繰り返されていた。