これには、依楼葉の胸の内も、温かくなった。

なにせ、中納言として出仕してから、親しい友人などいなかったからだ。

「私の方からも、ぜひ。」

依楼葉は、にこやかに承諾した。

「ああ、よかった。」

依楼葉と文隆が、和やかに話をしている時だ。


先ほどの、太政大臣・橘文弘が、側に来た。

「これはこれは、太政大臣様。」

先に挨拶をした藤原武徳に続いて、依楼葉と文隆も、頭を下げた。

「この方が、噂に聞く春の中納言殿か。」

依楼葉は、頭を上げた。

「なるほど。聞きしに勝るとも劣らない、艶やかな吾人よ。」

そう言うと橘文弘は、依楼葉の近くに座った。


自動的に、藤原武徳と文隆は、後ろに下がる。

「ところで、春の中納言殿は、このような噂、聞いた事がございますか?」

「噂……ですか?」

「帝が、恋患いをしていると……」


その瞬間、依楼葉の胸は、切り裂かれるように痛くなった。