「おおっ!早速そのように、呼んで頂けますか!」

藤原文隆は、嬉しそうに依楼葉の前に座った。

「その……妹は今、縁者の家におりまして、会う事は難しいと思われます。」

「そう、なの、ですか……」

「それに妹は、中身がまだ幼くて……自分から会ってみたいと言うまで、近づく事はご遠慮いただけますか?」

すると藤原文隆は、扇を出して微笑む顔を隠した。


「何と、妹思いの優しい兄君よ。」

「えっ?」

依楼葉が顔を上げると、すぐ目の前に、文隆の顔がある。

「そして、眉目秀麗。さすがは、宮中の女房達を虜にする、春の君よ。」

「あ、あの……」

あまりの顔の近さに、依楼葉は顔を背ける。


「その照れる素振りも、いいものよ。この藤原文隆、春の君殿に惚れ申した。」

「はあっ!?」

依楼葉は驚いて、藤原文隆から遠ざかった。

「ご安心召され。惚れたと言うても、男としてじゃ。親しい友人として、これからも付き合おうてゆきたいと言っているのです。」