その話に出ていた、和歌の姫君こと、左大臣家の依楼葉姫は、右大臣・藤原武徳につかまっていた。

「春の中納言殿、この前の話、覚えているよのう。」

「この前の……話ですか?」

依楼葉は右大臣の後ろに、一人の公達を見つけた。


色は白く、いかにも適当そうな吾人だ。

「もしかして、依楼葉を気に入ったと言う……」

「そうじゃ、そうじゃ!左大将を務める冬の君じゃ。」

すると紹介された冬の君、藤原崇文は一歩前に出た。

「お初にお目にかかります、春の中納言殿。左近衛大将を務めております、藤原崇文と申します。」

「……藤原咲哉と申します。何卒、宜しくお願い申し上げます。」

その艶やかに挨拶する様に、藤原崇文は一瞬で、心を奪われた。


「何と、噂に違わぬ吾人よ。これは、妹君に会うのは、楽しみで仕方がない。」

依楼葉は、頭を下げながら、困った事になったと渋い顔をした。

「実は冬の君殿。」