「この前、和歌の姫君の双子の兄だと言う、春の中納言に会った。その者に似ていたのだ。やはりあの方は、双子の妹君ではないかと……」

「ははは。それでは、素性は明らかではございませんか。」

それでも五条帝は、浮かない顔だ。

「だが、左大臣家の家に、おらぬのです。使用人達に聞いても、皆口を濁すそうで……」

「ほう……」

このままそんな姫君など、見つからなければいいのにと、橘文弘は思った。

関白左大臣家の姫君なら、入内すれば娘と同じ女御。

子を産んだら、その子は東宮に成り得るかもしれない。

それは、王族出身の橘文弘とすれば、自分の家の危機だ。


「そこで……諦めるのですか?」

橘文弘は、五条帝の耳元で囁いた。

「何と口惜しい。時の帝ともあろう方が、ただ一人の姫も自分のものにできぬとは。」

その言葉を聞いて、五条帝は胸をもっと抑えた。

「されど、いくら時の帝とて、どうにもできぬ事は、あるでしょう。」