橘文弘は、女御である桜子の父でもある。

そんな噂を聞けば、心中穏やかではないだろう。


「いえ……そのような事は……」

妻の父の前では、少し遠慮する五条帝。

「何を申されます。よき事ではございませんか。」

「叔父上……」

五条帝は、橘文弘と顔を合わせた。

「思えばまだ、お上が桜の君様と呼ばれていた頃から、女御は我が娘、ただ一人。それが未だただ一人の子もできず。如何でしょう。その恋煩いの相手を、入内させては。」

五条帝は、胸に手を当てた。

「それが……見つからぬのだ。」

「何ですと!?」

驚く振りをして、扇の裏でニヤッと笑う橘文弘。


「あの人は、和歌の姫君と呼ばれていた。そう呼ばれているのは、左大臣家の姫ではと、誰かが申していたのですが……」

「ほう。それは確かなのですか?」

「それが……似ていたのです。」

「似ていた?」

橘文弘は、首を傾げた。