打って変わって、ここは内裏の中の清涼殿。

帝が日常生活を送ったり、政を行う場所だ。


昼の御座にて、数多の書類に目を通し、許可するか判断していく。

「これは裁可。これも裁可にしよう。」
※帝が許可すること。

そんな時、太政大臣である橘文弘が、清涼殿にやってきた。


太政大臣とは、律令制度における司法・立法・行政を司る太政官の長官である。

これに次ぐ役職が、左大臣・右大臣だった。

帝の師範となり、天下のお手本となるような者が、その職位を背負うと規定されており、常設の職ではなかった。

時の帝の太政大臣は、父である先帝の弟君で自身の叔父、そして藤壺の女御・桜子の父でもある、橘文弘だった。


「ああ、これは太政大臣殿。」

叔父であり、義父である文弘が来た事で、五条帝の手は止まった。

「いえいえ、お上。そのままで。」

文弘は、五条帝から離れて座った。

「よいのです。調度、少し休もうかと思うておりました。」