「趣のない事……」

そう言って、つまらなそうな顔をして、御簾納の方を向いてしまった。

「これがあの今をときめく、春の君なのでしょうか。今の時分、妻一人で満足しようなど、憐れな事です。」

「すまぬ。だが、私は桃花だけで十分だ。」

依楼葉は、我慢した。

「だから男は、嫌いじゃ。今は好きだ惚れた言うても、本当に想っているのは、他にいるだから。」

「織姫の君?」

依楼葉が顔を覗くと、綾子は涙ぐんでいた。


我を思ふ人を 思はぬ報いにや
我が思ふ人の 我を思はぬ
(前世で私を思ってくれた人を思わなかった報いなのだろうか、現世で私が思っている人が私を思ってくれない。)


依楼葉は自分の恋と、綾子の恋を、重ねてしまった。

恋しい人に、恋慕ってほしい。

それは、誰もが一緒なのだ。


「もうよい。」

綾子は立ち上がると、御簾納の向こう側に。

「姉君は、良い夫をお持ちじゃ。」

そう言って、どこかへと消えてしまった。