「咲哉……お主……」
依楼葉の頭に、良からぬ事が過った。
だが咲哉は、手を拭うと笑顔を見せた。
「依楼葉。他の者には、黙っててくれないか?」
「咲哉……」
すると、咲哉の住まう西の対から、妻である桃花が、顔を出した。
この時代は、妻問婚と言って、結婚したら夫が妻の元に通うのが、一般的だったのだが、中納言の職に忙しい咲哉は、なかなか桃花の実家である右大臣家を、訪ねる事が難しかった。
嫉妬深いのか、桃花は業を煮やし、こうして左大臣家の西の対に引っ越してきて、一緒に住んでしまようになったのだ。
「背の君様(夫の事)。そろそろ、ご出仕のお時間でございます。」
「ああ、そうだな。」
桃花は、住んでいる場所から、西の方様と呼ばれていたが、左大臣でも、人が羨ましがる程の、仲の良い夫婦であった。
「咲哉。咳の事は、西の方は知っているのか?」
依楼葉が聞いても、咲哉は黙って、微笑むだけだった。
依楼葉の頭に、良からぬ事が過った。
だが咲哉は、手を拭うと笑顔を見せた。
「依楼葉。他の者には、黙っててくれないか?」
「咲哉……」
すると、咲哉の住まう西の対から、妻である桃花が、顔を出した。
この時代は、妻問婚と言って、結婚したら夫が妻の元に通うのが、一般的だったのだが、中納言の職に忙しい咲哉は、なかなか桃花の実家である右大臣家を、訪ねる事が難しかった。
嫉妬深いのか、桃花は業を煮やし、こうして左大臣家の西の対に引っ越してきて、一緒に住んでしまようになったのだ。
「背の君様(夫の事)。そろそろ、ご出仕のお時間でございます。」
「ああ、そうだな。」
桃花は、住んでいる場所から、西の方様と呼ばれていたが、左大臣でも、人が羨ましがる程の、仲の良い夫婦であった。
「咲哉。咳の事は、西の方は知っているのか?」
依楼葉が聞いても、咲哉は黙って、微笑むだけだった。