だが綾子の気まぐれは、あれで終わらなかった。

右大臣に言われた通り、綾子の事など忘れかけ、数日しても相手から音沙汰がなかった時だ。

その日の夜。

依楼葉は、宿直(トノイ)と言って、宮中の夜中を警備していた。

もう一人の宿直と交代し、しばしの仮寝をしようとしていた時だ。

誰かが、部屋と廊下の間にある、簾藤の側にいるのを感じた。


曲者?

依楼葉は、刀を持った。


「誰ぞ?ここにいるのが、藤原中納言と知っての事か?」

すると影は、こちらを向いた。

見ると、女のようだ。

「はい。春の中納言殿と、分かって訪れました。」

「その声は!?」

依楼葉は思い切って、簾藤を開けた。


「あ、あなたは……織姫の君!?」

「まあ、嬉しい。覚えて下さっていたのね。」

それは、この前あった桃花の妹、綾子だった。

綾子は部屋の中に入ってくると、依楼葉にすり寄って来た。

「お止め下さい。今は、宿直の最中です。」