こんなところで、春の中納言に見初められ、姉妹揃って同じ公達に嫁いでは、宝の持ち腐れだ。

「綾子。そろそろ、お勤めに戻ったら……」

「春の中納言様。ぜひまた、お会いしとうございます。」

「は?」

思ってもみない綾子からの誘いに、右大臣と共に、ポカンとする依楼葉。

「私は、藤壺の女御様にお仕えしております。お近くを通った際は、織姫の君とお呼び下さい。」

そう言うと綾子は、静々と戻って行った。


「織姫の君。」

「綾子の綾と言う字が、織物を表すからそう言われているのだが……」

右大臣は、そこではたっと話す事を、止めてしまった。

「……その様子ですと、他にも織姫の由来があるように見受けられますが?」

「そうか?」

夏でもないのに、右大臣は扇で自分を扇ぎ始めた。

「まあまあ。気にするな。あれは気まぐれじゃ。」

そう言って父である右大臣も、歩き出した。


今日は右大臣絡みで、変な者とばかり会うなと、依楼葉は思った。