依楼葉は咄嗟に、袖で顔を隠す。

この前の花見の祝宴では、じっくり顔を見られているから、もしかしたら、正体を知られるかもしれない。


「あら?」

だが運が悪い事に、依楼葉は綾子に見つかってしまう。

「この方はどなた?父上。」

「なんじゃ、知らぬのか。春の中納言殿。そなたの姉の夫だ。」

「春の……中納言……」

綾子は、ハッとした。

「まあ!お噂はかねがね聞いております。さすが女房達が騒ぐ程の、色男ですわ!」

なぜか綾子は、依楼葉に会って興奮している。

「ははは……これは、有難うございます。」


この雰囲気なら、自分がこの前会った和歌の姫君とは、気づいていないようだ。

「なんと。我が妻に、このような美しい妹君が、いたとは。」

依楼葉の言葉に、綾子は頬を赤くする。

実際綾子は、桃花に引けを取らない程の、美しい姫だった。

だからこそ、女房として梅壺の女御様に仕えさせ、いつか帝の目に止まればと思っている。