「いやいや、責めているのではない。むしろ自慢しているのじゃ。」

咲哉が幼い頃から、文武両道である事を知っていた武徳は、元服すると聞いて、誰よりも早く娘を貰ってくれと言っていた。

その甲斐があったと言うもの。


「ところで、この前のじゃじゃ馬の件だが。」

「は、はい。」

依楼葉は、一瞬ドキッとした。

「労をかけた。お陰で、滞りなく花見の祝宴ができた。あのじゃじゃ馬に会ったら、よくやったと誉めておいてくれ。」

これには、依楼葉も嬉しくなった。

「有難う、ございます。」

「それが、もう一つ頼まれて欲しくてのう。」

「はい?」

右大臣は、この前のように、またため息をついた。


「そなた……私の甥である藤原崇文を、知っているか?」

「いえ……すみません。勉強不足で。」

「いや、いいのだ。実はあやつが、その……」

何となく、言いにくそうにモジモジとしている。