依楼葉は、顔を伏せた。

「そんな……」

父の手から、扇が落ちる。

「ははは……はははっ!」

依楼葉は、泣きながら笑った。

「笑って下さい、父上様。初めての恋のお相手が、時の帝など。もう、笑うしかありません。」

「い、いや……それは……」

笑うものかと、本当は言ってやりたい。

だが、相手が悪い。


迎えた女御は、帝の従兄弟にあたる、太政大臣・橘文弘の娘・桜子。

帝の寵愛厚く、与えられた局は、帝が日常を暮らす清涼殿の、隣にある藤壺。

まだ子供はいないが、桜子にもし皇子が産まれれば、間違いなくその子供は、東宮(皇太子の事)になり、将来の帝だ。

その上、桜子は王族出身であるから、右大臣家でさえ、遠慮して娘を入内させない。

そんな中で、娘を帝に差し出す貴族が、どこにいるだろうか。


「依楼葉……」

娘の気持ちを考えると、父も泣けてくる。

「父上様……」

この時ばかりは親子で、ホロホロと泣き続けた。