左大臣の屋敷に戻ってきた依楼葉は、何も言わずに、自分の部屋に閉じこもってしまった。

「どうしたのですか?依楼葉は。」

「うーむ。それが、宮中から一言も喋らぬのよ。」

父も母である東の方も心配したが、当の本人である依楼葉は、全く部屋から出てこない。


自分の初めての恋が、時の帝であった。

依楼葉の心は、涙に暮れる。


よそにのみ 見てややみなむ
葛城や 高間の山の 嶺のしら雲
(遠くから見るばかりでこの恋は終わるのだろうか。葛城の高間の山の頂にかかる白雲のように。)


会えないのは、自分が男の振りをしているからだと、依楼葉は思っていた。

だが女に戻ったとしても、会える訳がない。

相手が帝だなんて。

人に笑われる程の、身分違いの恋だ。


いや、百歩譲って父が関白左大臣なのだから、入内はできるだろう。

それでも今の女御様(帝の妻)は、王族出身。