あの桜の下であった、公達の声にそっくりだった。

「右大将殿。」

「どうしました?春の中納言殿。」

依楼葉は、息を飲んだ。

「右大将殿は、皆に何と呼ばれているのですか?」

突拍子もない質問にも、厚弘は気兼ねなく答えてくれた。

「はい。私は蔵人の中でも頭中将と言う高い身分と、近衛府の中では最高位の右近衛大将を兼任している事から、一年の中で一番熱い夏の君と呼ばれております。」

「夏の…君……」

依楼葉は、厚弘と顔を合わせた。

「ええ。奇しくも春の中納言殿と同じような、名でございますな。」

「そう……ですね。」

これも何かの縁だとは感じるも、依楼葉の知りたい事は、他にあった。


「同じように……帝も別な名で、呼ばれていたり、なさいますか?」

依楼葉は、床を見ながら尋ねた。


「そうですね。帝は、桜がこの上なくお好きなので、”桜の君”と呼ばれたりしますが。」