「この上なき、お言葉でございます。」

依楼葉も、父と共に頭を下げる。

自分の回復まで気遣ってくれるなんて、お上はとても優しいお方なのだろう。

依楼葉は、そう思った。


すると父は、依楼葉に目配せした。

自分の斜め前に、座れという合図だ。

この場所で、父の申した事を、簾の中にいる尚侍や、蔵人に告げる。

そして依楼葉が、席を移動しようとした時だ。

蔵人が、依楼葉を止めた。

「関白殿。帝は、直にお話になりたいと、申されております。」

「えっ!!」

関白は、帝を補佐する役目なので、直に話をする事は、決しておかしい事ではなかったが、蔵人や中納言のいる中で、直に話をするとは、稀な機会だった。

父が簾の向こう側を見ると、帝は真っすぐ自分を見ている。

「承知致しました。」

父・藤原照明は一礼をすると、依楼葉に御簾納の側にいるようにと、伝えて、その中に入って行った。