その夜も、依楼葉は桃花の元を訪れた。

「背の君様……」

昨日の今日だから、もう来ないものだろうと、桃花は覚悟していた。

「お勤め、ご苦労様でございます。」

「ああ。」

桃花は努めて、平然を装っていた。

「今日は、如何でしたか?」

「そうだな。今日は政で太政大臣・橘文弘殿との間の伝達を務めた。」

「まあ……太政大臣様との……」

「太政大臣様は、さすが王族出身よ。この国の事を、常に第一に考えておられる。それでいて、物腰は柔らかく、周りに心を砕いて下さる。今日も病から回復したばかりの我を、気遣って下さった。」


つい昨晩までは、何も知らない童のような雰囲気であったのに、たった一晩で、今をときめく春の中納言の名に相応しい方に、なっている。

このような方ならば、他の女が放っておくこともなく、ましてや妻だけで、満足するはずもないではないか。

桃花は、恋をしている夫を、受け入れようと思った。