「やはり、睦事か?」

「それもありますが、私が他の女の元に通っていると、嫉妬されて……」

「やれやれ。」

父は、深いため息をついた。


「嫉妬するだけましと言うものだ。そのうち、嫉妬もしなくなり……話もしなくなり……」

「父上様?」

話がだんだん反れていく父の腕を、依楼葉は軽く揺する。

「その上……」

「その上?」

「……恋の事も、知られてしまいました。」

「おっとぉ!」

父は思わず、驚いてしまった。


「そうか。」

「はい。」

父・藤原照明は、扇を広げた。


人知れず 思へば苦しくれ
なゐの末摘花の 色に出でなむ
(人に知られることなく思い悩んでいると、苦しい。紅を染める末摘花の色のように、この恋はきっと表にあらわれてしまうだろう。)

「父上……」

「恋とは、そういうものよ。思い悩めば思い悩む程、周りは察してしまうのだ。」