桃花の声は、涙で震えていた。

だがこの恋は、実らないばかりか、口にも出せない。


「いや。それはただの噂だ。」

「えっ?」

依楼葉は、桃花を見つめた。

「そなた以外に、通っている女だと一人もいない。」

「背の君様……」

だが憂いを帯びた瞳を見た時、桃花は依楼葉の心に、誰か住んでいる事を感じた。


「……通っていらっしゃらないのは、なぜなのですか?」

依楼葉は、口を噤んだ。

「あなた様のお心には、どなたか住まわれているのでは?」

桃花の言葉に、依楼葉は月夜を見上げた。

「住んではいても、見つめる事さえできない……」

桃花は、ハッとした。


この切ない表情。

これが噂に聞く、花の君の艶めかしさなのか。


「お会いしたのは、一度だけ。でももう会う事は叶わない。」

その悲しさが、桃花にも伝わってくる。

「だとしたら……」

桃花は、また依楼葉にすり寄ってきた。