「桜の君様。」

お供の声に、二人はドキッとした。

「ああ……」

桜の君と呼ばれた公達は、顔を反らしてしまった。


ほんの一瞬だけ、見つめ合っただけなのに。

依楼葉の心臓は、高鳴る。


「桜の君様と、仰るんですね。」

依楼葉は、公達に話しかけた。

「ええ。桜の花が、一番好きなものですから。」

そう答えた公達は、ゆっくりとまた、依楼葉の方を向いてくれた。


依楼葉の心の中は、桜の君でいっぱいになる。

これが、恋と言うものなのだろうか。

何しろ、初めての事なのだから、依楼葉には分からなかった。


「あなたは、何とお呼びすれば……」

「私は……和……」

そこまで言って、依楼葉は言葉を止めた。

既にいない者の名を告げたところで、虚しいばかりだ。


だが、その時だ。

「和歌の姫君?」

綾子の呼び声に、依楼葉は振り向いてしまった。

「和歌の……姫君……」