そして公達の盃に、お酒がない事に気づいた依楼葉は、自分の持っている盃を置くと、お酒を注ぐ。

その時桜の葉が、公達の盃にヒラッと迷い込んだ。

「まあ……」

そして、心地よい風と共に、桜の花が二人を包んだ。

「綺麗……」

公達と依楼葉は、一緒に舞い散る桜を楽しんだ。

「美しいですね。」

「ええ……」

依楼葉は、ふいに下を向いた。

「でも……こんなに桜の花が散ってしまうのは、なんだか寂しい気持ちにもなります。」

すると公達は、空を見上げた。

大空に おほふばかりの袖もがな 
春咲く花を 風にまかせじ
(大空全体に覆うほどの大きな袖があったなら。春咲く花を風の思うがままにさせないのに。)

その歌で、二人は見つめ合った。

お互いの瞳に、お互いの顔が写る。

いつの間にか、花見をしているのを忘れ、依楼葉はその公達ばかりを、見続けた。