そうは言っても、下手に藤壺の女御様に気に入られ、宮中に出仕しろなんて言われたら、体がいくつあっても足りない。

依楼葉はそれとなく、女房達の隅で、花見を楽しんだ。


どれくらいの時が経ったか。

いつの間にか、疲れてしまって寝入ってしまった依楼葉。

気づけば、周りに女房達の姿はない。

「花見は、終わってしまったのかしら。」

辺りを見回すと、ただ一か所だけ、まだ灯りがついている。

なんとなく、依楼葉はその灯りに、近づいてみた。


そこには、一人の供だけを連れ、自分だけで花見をしている公達がいた。

「あの……」

その公達が、依楼葉の方を振り返る。

「失礼ですが、花見は終わってしまいましたか?」

依楼葉がそう尋ねると、その公達はぽかんとしている。


「おい、そこの女房。この方を……」

供の者がそう言うと、公達は左手を供の前に、差し出した。

「よい。」

その一言で、供の者は何も言わなくなった。