どうやら藤壺の女御様は、自分の事を知っているらしい。

「そなたの兄君は、今をときめく中納言・春の君よのう。」

「はい。」

今は自分が扮している為、なんだか頭の後ろがこそばゆい。

「うむうむ。やはり双子よのう。よく、似ている。」

「兄を、ご存知なのですか?」

「おうおう。よく知っておる。あの者は、気さくでのう。わらわにもよく和歌の話をしてくれる。女房達によく懐いておるしのう。」

その懐いていると言う意味が、別な意味に聞こえてくる依楼葉。

「……有難い事でございます。」

依楼葉は、手っ取り早く頭を下げた。


「そうだ、そなたも宮中に仕えればよいのに。」

「えっ……」

依楼葉の額に、汗が滲む。

「そなたであれば、我の藤壺に来てもよいぞ。」

「はははっ……私では、到底お役に立てますまい。」

「なんと、奥ゆかしい姫じゃ。」


既に咲哉として宮中に出仕しているのだから、これ以上は参内できない。

それだけの理由だ。