その花見の日。

久しぶりに女の成りをした依楼葉は、薄い白粉に初めて紅をさしてもらって、髪にはかもじを付け、宮中にやって来た。


「あなたが左大臣家の姫君・和歌の姫君ね。」

迎えてくれたのは、右大臣の娘で桃花の妹・綾子だった。

綾子は宮中で、藤壺の女御である太政大臣・橘文弘の娘・桜子に仕えていた。

「左大臣家の姫君が来てくれるなんて、助かったわ。」

「そうなんですか?」

「身分の高い家柄ではないと、女御様や帝様のお側に近寄れなくて。近寄れないと、何かと制限があって、面倒なのよ。」

「へえ。」

そう言っている間に、もう綾子は手を動かしている。

宮中の仕事は、何かと忙しいらしい。

「あの……私は何をしたらいいですか?」

「じゃあ、このお膳を運んでくださる。」

「ええ……」

ふと部屋の中を見ると、お膳は限りなくある。

依楼葉は、頭の中が真っ白になった。

「お願いしますね、和歌の姫君。」

綾子は、依楼葉の肩を叩いた。