これにはさすがの隼也も、傷ついた。

自分を産んでくれた母は、父愛用の笛を、いつも愛おしそうに眺めていた。

その思い出さえも、否定された。

「……謝って下さい。」

「隼也?」

「我が父に……何よりも我が母に、謝って下さい。」

父・照明が隼也を見ると、目に涙を貯めながら、静かに太政大臣・橘文弘を睨みつけていた。

「秋の中納言殿!」

大人しくて、人に喧嘩を売るような事など、一切ない隼也だけに、周りにいた橘厚弘も、藤原崇文も慌てて隼也を、なだめようとした。


「申し訳ありません。これは、父の戯言でして。」

橘厚弘は、隼也に頭を下げた。

「私は、太政大臣殿に申しているのです。」

隼也は、引き下がらなかった。

「生意気な。私を誰だと思っているのだ!」

完全に疑っている橘文弘は、キツイ目で隼也を睨み返した。

「生意気だと思われても構いません。いくら落ちぶれた家であっても、我が母は人の物を盗むようなお人ではありません。」