「主上……」

依楼葉が手を伸ばすと、桜の君も手を伸ばした。

「どうしたと言うのだ?まさかこれが、最後の逢瀬でもあるまいに。」

「はい。でも、なぜか今夜は……このまま、別れたくはなくて。」


自分でもどうしてしまったのか、依楼葉は分からなかった。

冬の左大将に、叶わぬ恋を打ち明けられたからなのか。

それとも、帝を心配してなのか。

これから来る、大きな黒い影に覚えているからなのか。

どれも、代わる代わる依楼葉の胸の中を掻きむしっては、消えて行った。


「では、今夜はこのまま、恋しい人の側で過ごそうか。」

春の君は、依楼葉の耳元で囁いた。

「……はい。」


思えば、いつも帝と情を交わす時は、悲しい思いばかりを浮かばせていた。

だが今夜は、心から帝の側にいる事が、心強く思わせてくれる。

このような時を重ねて、またもう一度、側にいてくれと言って貰えたら。

依楼葉は、帝と同じ夢をみたいと、願うのだった。