「では、その関白左大臣殿愛用の笛に、秘密があるのだな。」

「はい。」

「中納言には、乳母などおったか?もしおれば、その者に詳しく話を聞いてみたい。」

「私も!そう思うておりました!」

依楼葉は元気を取り戻したかのように、両手を握りしめた。

それをじーっと見つめる春の君。

「はい?」

「大人しくしていてくれと、申したばかりだと言うのに。」

「す、すみません。」

依楼葉は恥ずかしそうに、俯いた。

「まったく。」

桜の君は、静かに依楼葉の額に、自分の額を合わせた。

「そういう尚侍が、私は好きなのだがな。」

嬉しくて依楼葉は、微笑んでしまった。


「さて、では。私は戻るとしよう。」

急に離れてしまった春の君に、依楼葉は寂しさを感じた。

「寂しそうな顔をしているね。まさかあなたが、そんな表情をしてくれるとは。それだけでも、今夜来た甲斐があったと言うものだ。」