桜の君は、首を横に振った。

「ならば、許す事はできない。」

「主上!」

「私に、任せてはくれまいか?」

今度は、依楼葉の方が驚いた。

「秋の中納言は、私にとっても大事な者だ。それは、左大臣家の名が無くてもだが、疑われているとならば、助けたい気持ちもある。」

「主上……」

依楼葉は、春の君の申し出に、ホッとため息をついた。

「だから、そなたは大人しくしていてくれ。」

「……はい。」

まるで父にでも言われたかのように、依楼葉は大人しくした。


「ところで、秋の中納言はどのようにして、左大臣家に受け入れられたのだ?」

「隼也の母上がお亡くなりになった時に、これは父親から頂いた物だと、我が父愛用の笛を渡されたそうです。」

「ほう?」

「隼也はそれを持って、我が家に参ったのです。父上様も最初は無くされたと申していたのに、急に自分愛用の笛だと、我が息子に違いないと仰って……」