「尚侍?」

「今は隼也だけ狙っていたとしても、将来主上を狙うかもしれません。そんな事があれば、私は……私は!」

春の君は、依楼葉を抱きしめた。

「私は、大丈夫だ。」

「主上……」

「それよりも、そなたが心配だ。あまりいろいろ考えて、手を出すのではないかと。」

「そのような事は……」

「現に、家の為に公達に扮して、怪我までしたではないか。」


依楼葉は男の成りをして、帝の側にいた時の事を思い出した。

「あの時は……あの時です。」

「そうか?ならば、よいが。」

春の君はそっと、依楼葉から離れた。

「ですが、もう一度だけ、目を瞑って頂けませんか?」

「何をする気だ?」

「弟の隼也を、救ってやりたいのです。」

「秋の中納言を?」

春の君は、渋い顔をした。

「隼也は、本当に左大臣家の者なのか、周りから疑われております。それを父に伝えてきたのが、太政大臣殿なのです。」