「一番憂いている者?そうだな……藤壺の父、太政大臣殿だろうなぁ。」

「太政大臣殿……」

依楼葉の頭の中に、あの冷ややかな目が思い浮かぶ。

「太政大臣殿は、藤壺の懐妊を誰よりも喜んでいた。それが、本人の嘘だと分かり、行き場のない思いに、駆られているであろう。」

背中にヒヤッとした、空気を感じた依楼葉。

それだけではない、嫌な予感がしたのだ。

「太政大臣殿は……政を狙っていたと言う事は、ありませんか?」

「政?太政大臣殿が?」

春の君は、考え込んだ。


「まさか太政大臣では足りずに、摂政関白まで狙っているのか?」

「摂政関白を!?」

依楼葉と春の君は、顔を見合わせた。

「藤壺に皇子が産まれ、皇太子になれば、太政大臣殿はその叔父。陰で政を操る事もできる。」

「そんな……」


依楼葉は、弟の隼也の身の回りだけではない、大きな黒い渦を感じた。

「放っておけません。」