するとどこからか、足音が聞こえてきた。

「はて。誰も想うて詠んだ歌なのだろうか。」

足音の主は、春の君だった。

「……主上。」

依楼葉は慌てて、座り直した。

「ああ、そのままで。」

春の君は、依楼葉の側に片足をついて座った。


「まさか、私ではあるまいな。これ程までに、あなたと想い合うていると言うのに。」

「……はい。」

素直に返事をする依楼葉に、反って驚いたのは春の君だった。


「……昔、恋人になってくれないかと、仰った方です。」

「ほう。それは私に、妬けと申しているのかな。」

春の君が依楼葉の顔を覗くと、はにかみながら依楼葉は、下を向いた。

「その方が教えてくれたのですが、弟の隼也に、危険が迫っているかもしれないのです。」

「秋の中納言に?」

依楼葉は少しずつ、春の君に近づいた。

「主上、教えて下さい。藤壺の女御様の力が無くなった今、一番憂いているのは、どなたですか?」