「そのせいで、藤壺の女御様は、帝のお怒りを買った。おそらくもう、他の入内した姫に、嫌がらせ等はできないでしょう。」

「はい。」

「そこでなのだが……あなたはまだ、春の君の妹背なのだろうか。」

依楼葉は困りながら、顔を上げた。

「もしそうなら、今入内しても、あなたを邪魔する者はいない。」

「夏の左大将様?」

藤原崇文は、依楼葉の頬にそっと触れた。

「……友の妹背でなければ、このままそなたを奪いたかった。」

その寂しげな瞳の奥に、依楼葉はドキッとした。


今まで、半分からかっていたように、『和歌の君が恋しい。』と言っていた夏の君。

いくつか貰った文にも、浮いた言葉ばかりで、本当に気持ちがあるのか分からなかった。

春の祝宴の時にも、自ら春の君の元へ、誘ってくれたと言うのに。


依楼葉はこの時初めて、夏の君が自分を恋しく思ってくれている事を知ったのだった。