「隼也は、嫌がらせはないと申すのだが、なんだか胸騒ぎが治まらなくてのう。」

咲哉が亡くなって、依楼葉が咲哉に扮していた時、隼也が左大臣家に現れ、どれだけ家は助かったか。

何事もなければいいと願うのは、姉の依楼葉も同じ事だ。

「分かりました。私も何か耳にしましたら、父上様にご報告いたします。」

「すまぬな、依楼葉。」

こうして父・照明は去って行ったが、父同様、嫌な予感がするのは依楼葉も同じだった。

だが、いろいろ探り回っては、相手の目に触れてしまう。

依楼葉は何かにつけ、歌会の事について伺える相手を、吟味していた。


しばらく経って、その好機がやってきた。

冬の左大将・藤原崇文に会ったのだ。

「おお、和歌の姫君。いや、今は尚侍殿か。」

少し前まで、依楼葉の事を気に入っていた藤原崇文は、久しぶりに依楼葉に会えて、笑顔でいる。

「もしや帝を諦めて、私の元へ来るとでも?」