「桜子が、偽りの懐妊だと!?」

父・橘文弘は、扇を床に激しく打ち付けた。

「余計な事をしおって!」

橘文弘は、もう少しで手に入りそうな、外戚政治の希望を断たれた事に、怒りを顕わにした。

「どうにか、ならないのか!」

側で聞いていた厚弘も、こればかりは何ともできない。


「桜子は、偽りの懐妊を申すばかりか、帝お気に入りの尚侍を、陥れようとしたのです。それは、帝のお怒りを買うばかりか、この太政大臣家の信頼も、失いかねているやもしれません。」

「ああ、何て事なのだ。」

一つ一つ積み上げてきた信頼が、こうも簡単に崩れ落ちていくとは。

「おのれ……左大臣家め……」

橘の厚弘の怒りの矛先は、左大臣家に向けられた。