そして橘の君は、嫉妬に狂った桜子が、依楼葉の首を絞め殺そうとした事。

桜子が庭に落ちたのは、女房が裾を踏み、桜子に間違ってしがみついてしまった為だと言うこと。

桜子は懐妊したと聞いていたが、庭から落ちたのに、全く流産の兆しがなかったことを、帝に告げた。

それを聞いた帝は立ち上がると、直ぐに藤壺へと向かった。


藤壺では、戻って来てくれた帝に、安堵の声が上がった。

だがそれも、ほんの少しばかりの時で、終わってしまった。


「医師よ。藤壺は、懐妊していたのか?」

医師は答えない。

「はっきり申せ。」

医師は、重い口を開いた。

「庭に落ちる前の事が分かりませんので、何とも言えませんが、女御様が懐妊されていた可能性は、低いように思われます。」

「なに!?」

一番驚いたのは、兄の橘厚弘だった。


「やっぱりな。」

帝は、桜子を冷たい目で見降ろした。

「帝の尚侍を、首を絞め殺そうとしたばかりか、懐妊も嘘だったとは。藤壺の女御。しばらくはここで謹慎していなさい。」

「主上!」

桜子が呼び止めようとも、帝は戻って来る事はなかった。