その一声で、皆は藤壺から離れた。

帝はその隙に、依楼葉を抱き上げ、清涼殿まで連れてきた。

依楼葉を横たわらせ、水で濡らした布を彼女の頬に当てると、依楼葉はゆっくりと目を開けた。

「……気がついたか。」

「主上……」

依楼葉は、急に起き上がろうとした。

「もう少し、休め。」

帝は依楼葉をもう一度、横たわらせた。


「さて。一体何が起こったのだ。」

依楼葉は、反対側を向いて、何も答えない。

「私が聞いているのに、答えられないのか?」

「……お許しください。」

他の者なら強引に聞くと言うのに、相手が依楼葉では、帝は一歩踏み出せないでいた。


そんな時だ。

依楼葉の元に仕えている橘の君が、側に来た。

「主上。私がお話致します。」

依楼葉は、ハッとした。

「橘の君、黙っているのです。」

「でも!」

橘の君は、依楼葉の手を握った。


「どうするかは、主上が決める事。私はありのままを、お伝えするだけです。」