突然桜子が、依楼葉の首に、手を回したのだ。

「死ね……おまえなど、いなくなればいい……」

依楼葉は、ゾッとした。

きっと今まで入内してきた姫君も、同じような思いをしてきたのだと思うと、体が震えてきた。

だが、依楼葉は入内した姫君ではない。

しかも、帝に仕える尚侍と言う、大事な役目がある。


ここで死ぬ訳には、いかない。

薄れゆく意識の中で、依楼葉は思い切って、桜子を押し飛ばした。

「きゃあっ!」

だが押し飛ばした場所が悪かった。

見境なく飛ばした為、部屋ではなく、廊下の方にやってしまったのだ。

「この……」

髪を振り乱し、立ち上がる桜子の様は、まるで夜叉のようだった。


「ひぃいいい!」

周りの女房達は、恐ろしさのあまり、逃げ惑う。

その中の一人の女房が謝って、自分の衣の裾を踏んでしまった。

「あっ……」

滑った女房は、近くにいた者の、腕にしがみついてしまった。